✿ 不妊症ついて
不妊症とは
日本では妊娠を希望しているご夫婦が「2年以上妊娠しない場合」を不妊症といっていましたが、近年の晩婚化により妊娠可能期間が短くなってきているため最近「1年以上妊娠しない場合」と改正されました。
不妊の原因
不妊症の原因は多種あります。卵子や精子の形成異常、受精から着床にいたる過程のどれか一つでも問題があれば、妊娠が困難となります。現在では不妊原因は男女半々程度の割合であると考えられています。
1. 女性因子
排卵障害、ホルモン異常、子宮筋腫等の子宮形態異常、子宮内膜症、
高プロラクチン血症、卵管閉塞 、抗精子抗体等があります。
2. 男性因子
精子減少症、精子無力症、無精子症、射精障害
妊娠の成立
精液は精巣で形成され、生殖管を通り、膣内に射精されます。その後子宮頸管、子宮内膜をへて受精の場である卵管に到達します。
卵は卵巣で成熟し、腹腔内に排卵され、卵管に取り込まれます。卵管で受精が行われ、受精卵は卵管内を子宮内膜に向け移動します。子宮では子宮内膜が妊娠成立に向け変化し、受精卵の到着を待ちます。うまく着床すれば妊娠成立です。
この過程のどこかに問題があれば妊娠は成立しません。妊娠できない原因がどこにあるのか、不妊症に対する検査はそれぞれを一つづつ検査していきます。
女性の検査
女性の検査には月経周期によって検査時期が決められるものと、いつの時期にでも検査できるものがあります。
(1)基礎体温
基礎体温でわかることは①排卵日の推定 ②排卵の確認 ③黄体機能不全の推
定 ④機能性子宮出血の診断 ⑤妊娠の診断 などがあげられます。つけ忘れが
あっても中止せず長く記録することが大切です。
(2)各種ホルモン検査
①ゴナドトロピン(LH、FSH および LH-RH負荷試験)
通常、卵胞期初期に検査します。LH、FSHの基礎値をみます。また負荷試験で
は視床下部-下垂体-卵巣のホルモンの流れの異常を調べます。
②プロラクチン基礎値とTRH負荷試験
通常、卵胞期初期に検査します。プロラクチンが高いと排卵障害や黄体機能
不全等を起こしやすく不妊症の原因になります。
また、TRH負荷試験は日中は正常でも深夜から夜明けにプロラクチンが異常
高値になる潜在性高プロラクチン血症の診断に役立ちます。
③エストラディオール(E2)、プロゲステロン(P4)
当院では黄体期中期(高温相の中間)に検査します。
P4は着床を助け、妊娠した後の妊娠の安定に寄与します。
(3)子宮卵管造影検査(超音波法)
通常月経開始10日目ころに検査します。当院では生理食塩液と空気の混合液
を子宮内に注入し、超音波で卵管の疎通性を観察します。
レントゲン造影検査に比べると被ばくがなく、痛みも軽いという利点があります。
(4)頸管粘液検査、フーナーテスト
排卵期ころに検査します。頸管粘液が少ない場合、精子が子宮内に進入しにくくなります。
フーナーテストは排卵期に性交して来院、子宮頸管内に元気な精子が到達しているかどうかを確認します。動けない精子や死んだ精子が多い場合は「抗精子抗体」の検査を計画します。
男性の検査
(1)精液検査:基本的には2日から7日間の禁欲後にを行います。
精液量、精子濃度、運動率、精子形態異常の割合等をチェックします。
(2)精液検査で異常を認めれば、ホルモン検査(LH、FSH、テストステロン)や泌尿器科的検査を計画します。
不妊症の治療法
以上の検査で原因が判明すれば、原因除去のための治療を行います。しかしながら、明確な原因が判明しない場合もしばしばです(原因不明不妊)。明らかな原因がない場合は、妊娠の確立が高い方法を段階的にとって行くということになります。
1.自然排卵によるタイミング指導
基礎体温表より、普段の排卵推定日(低温相と高温相の境界付近)の1-2日前に受診していただきます。
- 超音波検査で卵胞(卵子の入った袋)の大きさと子宮内膜の厚さを計測します。排卵が近づくと、卵胞の大きさは18-20mm、子宮内膜の厚さは約10mmになります。
- 子宮頸管粘液量を調べます。子宮頸管粘液は、排卵が近づくと増量します。
- 尿中LH(黄体化ホルモン)のチェック。ご自宅で尿を用いた排卵時期の予測方法も併用していただきます。LHは排卵が近づくと一過性に急激な増加を示し(LHサージ)、その約36時間後に排卵する確率が高くなります。この変化を把握することで、精子と卵子の受精する確率を高めます。
2.排卵誘発剤を用いたタイミング指導
1)クロミフェンやセキソビット(内服薬)を用いる方法
自然排卵によるタイミング指導に比べ妊娠の可能性が高まりますが、卵胞が2個以上は発育することがあり、多胎妊娠の可能性も若干高くなります。
2)注射の排卵誘発剤を用いるタイミング指導
クロミフェンを用いたタイミング指導を2・3回行っても妊娠しない場合、注射の排卵誘発剤をもちいることがあります。
HMG(ヒト閉経期尿性性腺刺激ホルモン)かFSH(卵胞刺激ホルモン)を用いて卵子の発育を促す方法です。通常は月経周期3日目から5日目に注射を開始し、基本的に毎日から隔日に投与します。卵子が成熟したらhCG(ヒト胎盤性性腺刺激ホルモン)を注射して排卵をコントロールします。 クロミフェンでは卵子が育たない場合や卵子をもっと増やしたい場合に有効です。但し、品胎以上の多胎の可能性と卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の可能性に十分気をつけなければなりません。卵巣過剰刺激症候群を起こすと卵巣が腫れたり、腹水・胸水が貯まることがあります。
3.排卵誘発法+人工授精
上記排卵誘発法+ご主人の精液あるいは精子調整液を子宮内に注入する方法です。
精液を洗浄濃縮した精子調整液を注入します。
適応
通常の人工授精(AIH)は、ご主人の精子が子宮内に入ることが出来ないか困難な症例に適応されます。また、不妊原因の不明な機能性不妊の症例でも適応となることがあります。
方法
外来検査で授精の日が決定したら、事前に精液採取容器をお渡しします。
所要時間は2~3分で、強い痛みは伴いませんが多少の違和感や、つれる様な感じを受けることもあります。処置後約5分間安静とし、体調に変わりがないことを確認してから帰宅していただきます。
副作用
通常の性交渉に比べて、若干多い精液中の細菌や白血球等が子宮内に入る可能性があり、感染予防のための抗生剤(3日分)を内服していただきます。
治療の目安
人工授精4-5回まではある程度の妊娠率(人工授精で妊娠する症例のうち約8割が5-7回までに妊娠)が期待できますが、それ以上の人工授精では 妊娠の見込みは著しく減少します。3-5回前後の人工授精で妊娠しない場合、次の段階の治療(主に体外受精)をお勧めすることが多くなります。
4.体外受精等の生殖補助医療(ART)が必要な場合は不妊専門医院にご紹介いたします。